野良猫を保護するまでの顛末③

野良猫を保護するまでの顛末 / / ③ / ⑤(完)

リッチェルの新しいキャリーバッグが届いた日、私はキャリーを抱えて勇み足で猫の元へ向かった。通い始めて9回目か10回目だったと思う。

作戦はこうだ。あらかじめ小さく切っておいた複数の紙皿にチュールを分けてのせ、キャリーの入り口から奥へと並べて配置する。中に入ればたくさんチュールが食べられるという成功体験を積んでもらうのが狙いだ。これを数日繰り返し、中で食事をすることに慣れたところで捕獲を試みる。というわけで初日の今日はこの見知らぬハコの存在を認知してもらうだけのつもりだった。

いつもの場所に到着するとポテが寄ってきて、私が鞄からチュールを取り出すのを見てナァと鳴いた。さっそく作戦を遂行するべくキャリー上部の扉を開けて一番奥にチュール皿を設置したのだが、その時点でポテはキャリーの中に上半身をつっこんで食べ始めた。躊躇いは一切なかった。私はあっけにとられるとともにリッチェルに深く感謝した。

そのまま食べている傍にチュールを3皿追加したところ、初めは外に出ていた後ろ足がキャリーの中に吸い込まれ、ついにはしっぽもほぼ吸い込まれた。ここで捕獲に失敗したら警戒されて次はないだろう…と思いながら上部の扉を閉めた。音がしたがポテは無頓着に食べ続けている。側面の扉もゆっくりと閉じてみる。しっぽの先がはみ出ていたのでツンツンすると、やがて引っ込んだ。そのまま扉を閉めてロックをかけた。捕獲成功した。

リッチェルは初見で猫の信頼を得た

興奮のあまり震える手でスマホを取り出し、調べておいた近くの動物病院に電話をかけた。本当に手が震えていて、うまく画面をタップすることができなかった。野良猫も診てくれること、初診の場合は大体2万円ほどになることを確認し、15分ほどで着くと告げて電話を切った。ポテはキャリーの中で落ち着いている様子だったが、持ち上げるとさすがに驚いたのか動き回る気配がした。揺れないようにキャリーの底を支えると温かくて重かった。

公園を出たところで女性に声をかけられた。この辺りで地域猫の餌やりをしている女性だった。実は何度か通う間に犬の散歩をしている近所の人に話しかけられ、その際に野良猫を保護したいのだと伝えたことがあった。その人がこの女性と知り合いで、話が伝わっていたらしい。どの子を保護してくれるのですかと尋ねられたのでポテの姿を見せると「くろちゃんか、良かったねぇ」と喜んでくれた。以前から具合が悪い様子だったので気にかけておられたようだ。少し話を聞くと、ポテはこの辺りで生まれた子ではなく、人に懐いていることからも恐らく大人になってから捨てられたのだろうということだった。穏やかで優しい子なんですよと女性は何度か繰り返した。本当にそうですよねと私は答えた。

状況を把握し始めたのかポテが側面の扉を猫パンチした。バスタオルでキャリーを覆うと少し大人しくなったようだ。また様子を知らせに来ると女性に約束し、私はキャリーを抱きかかえて公園を後にした。