しがない猫の全抜歯の記録②(完)

しがない猫の全抜歯の記録 / ②(完)

術後1日目の朝、開院と同時にポテを迎えに行った。お会計は98,230円。診察室でポテと対面し、口腔内を見せてもらう。口角部の炎症がまだ残っているので、これがどれだけ治まるかですねと先生は言った。今夜から1日2回痛み止めの薬を飲むこと。そして何より無理やりにでも食べさせること。今朝病院で食事を出してもらった際は手を付けなかったそうだ。今日中に何も食べないようであれば明日また連れて来なければならない。よく食べるようであれば2週間以上あけてワクチンを打ってもらうことになった。抜けた歯を記念にもらって我々は病院を後にした。

歯牙ない猫

帰宅。キャリーの扉を開けて一瞬目を離した隙にポテは段ボールハウスの中へ退避していた。家に戻ったことを認識してくれたのだろうか、顔つきも落ち着いているように見えたので好物のチュールとささみを差し出したところ勢いよく食べた。それから定位置のマットの上に移動してウェットフードも食べた。退院直後にこれだけ食べてくれたのでまずは一安心である。

18:00頃仕事から戻ると、ポテは普段通りに過ごした様子でトイレに行った形跡もあった。食事の様子を注意深く見守ってみる。食いつきは問題ないが、時折首を大きく傾けてクチャクチャと口を動かしている。痛い、という感じではないので違和感があるのだろうか。固形の餌をうまく口に入れられずこぼす姿も見られた。舌で押し出したところを前歯でキャッチしていたのが、その歯がなくなったためにこぼれ落ちるようだ。この日ポテはチュール3本とささみ、ウェットフードで合計168.5kcalを摂取した。

不思議そうに口まわりを舐めている

術後2日目、起床してポテの様子を見ると透明のよだれが出ていた。血は止まったようだ。以前はかなり強かった口臭がすっかり無くなっている。私はこの日、ポテが入っている段ボールを動かして驚かせてしまった。ただでさえ病院に連れて行ったことで警戒心を持たれていたのに、迂闊だった。反省。食欲は問題なく、チュール3本とささみ、ウェットフードで合計209.5kcalを摂取した。

妙にフォトジェニックなよだれ

術後3日目、家に戻ってから初めてのポテチ(ポテのうんち)を確認した。それと退院してから鳴かないのが気になっていたのだが、この日仕事から帰るとニャーと寄ってきてくれた。手術前と変わらない、高齢の雄とは思えないほど可愛らしい高い声である。この日はチュール2本とささみ、ウェットフードで合計157.7kcalを摂取した。

術後4日目は209.7kcal、5日目は219.5kcalとポテはその後も順調に食べてくれている。食事中に首を大きく傾げる仕草はだんだん見なくなり、歯なしで食べるコツもつかみつつある。歯肉炎の痛みから解放されたのと去勢したのとで食欲は増しているようだ。そういえば歯を抜くついでのように玉も取られたのだった。本猫は気づいているのかいないのか、真顔で股間をグルーミングしている。

記念にもらえた歯(玉はもらえなかった)

狩りをしない家猫は歯がなくても生きられる。裏を返せば、歯を失ったポテは二度と野生に戻ることはできないということだ。もとより一生離れるつもりはないのだが、小さな歯の欠片を眺めていると何だか改めて強い気持ちがこみ上げてきた。歯牙ないポテにはしがない家猫として安穏と暮らしてほしいと思うものである。