しがない猫の全抜歯の記録 ① / ②(完)
保護時の猫風邪の症状が落ち着いたポテは去勢手術を受けることになった。手術の際に麻酔をかけて同時に抜歯も行う予定である。ポテは重度の歯肉炎なので、獣医さんによれば去勢よりもむしろ抜歯がメインだという。
胃の中に物があると手術ができないため、前日21:00から絶食、深夜以降は水の器も下げた。そして当日の朝、大好きなささみを見せておびき出したところをひょいと抱っこしてキャリーに放り込む。ポテは怒ってわんわん唸り、扉を猫パンチした。前回の通院時は逃げるポテを部屋中追いかけ回した挙句タオルをかぶせて捕獲したので、それに比べれば前進した…といえるのだろうか。
術前の診察で体重が3.7kgに増えていること、体調が改善していることが確認された。歯は術中判断になるが、犬歯も含めて全て抜く可能性が高いらしい。それでもし食べられなくなった場合はカテーテルを留置してチューブで食事を与えることになるかもしれないと言われ、正直かなり身構えた。
猫の歯は主に狩った獲物の肉を骨から剝ぐために使われる。人間のように咀嚼するということはなく、食事はほぼ丸呑みする。なので狩りをしない家猫は歯がなくても日常生活に問題はないらしい。それに対して歯肉炎は食欲不振を招くし、進行すると腎臓病のリスクを増大させる。そんなわけで全抜歯が最善の処置なのだろうと頭では理解したつもりでも、やはり抵抗感が拭えない。麻酔に対する不安もある。怯えた顔のポテを診察台に残して仕事へ向かう時はたまらない気持ちだった。
その日の14:30に動物病院から電話があり、無事手術が終了したと報告を受けた。歯はやはり全て抜かれていた。本猫は麻酔が切れて意識が戻りつつあり、血も止まりそうとのこと。術前の血液検査では全ての数値が前回より改善していたと教えてもらって嬉しくなった。
お迎えは翌日なので、久しぶりのポテなしの夜である。いないのは分かっているのにベッド下のいつもの寝床をつい覗きたくなってしまう。その日は何だかよく眠れなかった。