猫と引越し ① / ②(完)
翌日は朝からバタバタだった。午後に引越し業者が来るので、それまでに車を借りて残りの荷物とポテを新居に移す必要がある。その合間に旧居の掃除やガスの閉栓立会いもこなさなければならない。入念なシミュレーションの結果、まずはポテをキャリーに入れることにした。病院のトラウマのせいでポテはキャリーが大の苦手なので、これが本日の最難関ミッションといって良い。
本猫は食事を終えて、カーテンのなくなった窓を興味深そうに見ている。そこを背後からそっと抱き上げ、素早くキャリーに放り込んだ。案の定ワーワー怒ったが仕方ない。残った荷物を運び出すのに玄関扉を開け放すので、ポテにはキャリーに入っていてほしかったのだ。
ポテのストレスを最小限にするため、お気に入りのグッズは自分たちで運ぶことにしていた。段ボールハウス、トイレ、ごはん皿、においのついたラグとクッション、布団、爪とぎなどである。これらがあれば新居でもとりあえずポテの居場所を整えることができるはずだ。費用を浮かせるために家具もいくつか自分たちで運んだのでけっこうな量になり、旧居と新居を2往復して何とか移動が終わった。
さっそく個室の1つにポテグッズを並べてなるべく旧居と同じ状態を再現する。キャリーを運び入れて扉を開けると、ポテはすぐに出てきて、隣に配置してあった段ボールハウスに逃げ込んだ。やがて引越し業者が来て、あっという間に荷物が運び込まれた。もちろんその間ポテの個室は閉め切った状態である。
業者が撤収して一息つき、ハウスに籠っているポテにチュールを差し入れてみた。まんまるな目のまま食べ始めたが、外で音がするたびに口がお留守になってこぼしている。しばらくはハウスから出てこないだろうと思っていたところ、深夜3時頃になってそろりと出てきた。部屋の中を少し探索し、餌を食べ、布団にあがってきて人間2人の間におさまった。引越し初日から姿を見せてくれてまずは安心である。
翌日、翌々日は基本的に段ボールハウスで過ごしつつ、部屋を少しずつ探検して回っていた。4日目には全ての部屋のチェックが終わり、1日の大半をハウスの外で過ごすようになった。とりわけ日の当たる窓辺が気に入った様子だったので、愛用のクッションを置いておくことにする。
ポテは野良生活も全抜歯手術も乗り越えた強い猫なので、今回の住環境の変化もどんと受け入れてくれたようだ。目を細めてひなたぼっこをする姿を見るたびに、あぁ引越しを決めて良かったという気持ちが湧いてくる。そうして人間もついポテの隣で横になってしまうので、片付けがちっとも進まないのだった。