洗濯機下立てこもり事件

野良猫だったポテを保護してそろそろ1カ月という頃、一緒に暮らしている人間2人が相次いでコロナに感染して計10日間の自宅療養となった。その9日目に起きた洗濯機下立てこもり事件について、今回は書きたいと思う。

立てこもり犯

ポテは人間がベッドに入った深夜に家じゅうをパトロールする日課がある。自宅療養が9日目を迎えた深夜0:30頃、いつものようにパトロールを開始したポテは普段閉まっている洗面所のドアが開いているのを発見して入っていった。ベッドで耳をそばだてていると、ジャラジャラと音がしたきり出てこない。これは洗濯機下だなと私は思った。

というのも、実は以前にも一度ポテが洗濯機の下に潜り込んだことがあったのだ。その時は1時間ほどしても出てこないので様子を見に行くと、目を丸くして体を強張らせていた。もしかして出られなくなったのか?と思い洗濯機を奥に傾け手前を少し浮かせたところ、脱兎のごとく飛び出していつもの寝床に一直線に駆け込んでいった。

そこで洗濯機の正面にブロックを置いて入れないようにしておいたのだが、今回ポテは側面に掛けてあるピンチハンガーをかき分けて僅かな隙間から侵入したようだ。前回のことがあっても再び入ったということは、これは確信犯的に、入りたくて入ったということだろう。それならばそっとしておこうと思いその夜は就寝した。

現場の様子

翌朝、まだ出てこない。手を差し入れてみるとシャーと怒るので、餌皿を洗濯機の前に置いて離れた。そのまま夕方になりさすがに心配になってきた。もう半日以上経つのに食事もしていないしトイレに行く気配もない。防水パンの上なのでそこで排泄しても構わないといえば構わないが、ポテの体が汚れてしまうのは困る。姿勢も朝からほとんど変わらず体が強張っている様子。声をかけながらお尻の方を触ってみると怒らないので、口元に大好きなささみを近づけてみる。ポテは気付いて食べようとしたが、いかんせん人間の腕1本がぎりぎり入るくらいのスペースしかないのでうまく口に入らず下に落としてしまった。

悩んだ挙句、我々は強硬手段に出ることにした。まずは前回のように洗濯機を傾けてみる。出てこない。洗濯機を揺らしたり、ハンガーをそっと差し入れてお尻をつついてみる。出てこない。とにかくスペースがないのが問題だと思い、洗濯機の下に下駄をかませて嵩上げした。これで両腕が入るようになったので抱き寄せようとするとポテは全身をつっぱらせて抵抗する。今思えばいずれも悪手だった。

私は半ば諦めて、せめて埃を取ってやろうと思いポテお気に入りのグルーミンググローブを持ってきた。全身をわしわしと撫でていると、ポテから小さなゴロゴロ音が漏れ出してきた。おやと思って見ると明らかにリラックスした表情になっている。頭をこちらに近づけてきたので手を引いて見守っていると、鼻先だけ出して外のにおいを慎重に嗅いだ後、ついに洗濯機下から出てきた。およそ18時間にわたる立てこもりが終了した瞬間であった。

洗面所を出たポテは通路に置いてあったキャリーにしばし入った(尿意が限界だったのだろう、後で確認すると排尿していたので分解して洗った)。その後また洗面所に戻ろうとしたがすでに扉を閉めてあったので行き場を失い、こちらを見て救いを求めるような声でニャーと鳴いた。そしてベッド下のいつもの寝床に戻って伸びをした。

ベッドの下が定位置

この立てこもりは飼い主としては不甲斐ない事件であった。振り返ってみれば、この1週間ポテは明らかに甘えに寄ってくる回数が減っていた。それはすなわち人間2人がコロナのために自宅療養していた期間である。しかもその大部分を寝込んで過ごしていたわけで、ポテにとっては自分の寝床の真上に常に人間がいたことになる。この環境の変化がポテにストレスを与えていたのだと思う。それで9日目、平穏な居場所を求めて立てこもりを決行したのだろう。寝床の他に隠れられる場所を早急に用意する必要があると反省した私は、入り口を切り取った段ボールハウスを2つほど物陰に配置した。

隔離期間が終了して我々は日常に戻った。ポテは段ボールハウスが気に入ったようで、箱入り猫になっていることが増えた。そして嬉しいことに、自宅療養以前よりも積極的に人間の傍に寄ってくるようになった。猫は要望を言葉にすることができない。だからこそ毎日の様子や些細な変化に常に注意を払って、ポテの好きなこと嫌いなことを発見していかねばならないと改めて感じている。