2022年に読んだ本

すっかり猫ブログと化してしまったので珍しく本の話など…ということで、2022年に読んでおもしろかった小説を3冊紹介してみる。以下、読んだ順。

 

第2次世界大戦下のドイツにもしインターネットが存在したら…という設定の改変歴史小説。本作が恐ろしいのは、「普通」の人間が「普通」に生きた結果、悲劇的な末路をたどるところにあると思う。

主人公は国家保安局(NSA)にプログラマとして勤務するヘレーネという女性である。プログラミングは作中で「プログラムニッティング」と称され、編み物と同じく男のやることではないと考えられている。不美人でプログラミングだけが得意だった彼女にとって、プログラマ以外の選択肢はほぼなかった。

ヘレーネは職場で求められる役割を果たすうちに、ナチスの恐ろしい監視システムの構築を否応なく担わされていくことになる。例えばある日、彼女は成人の1日あたりの平均消費カロリーと各世帯の食料品の購入量を比較するプログラムを組むよう上司に求められる。国民の健康を考えてのことかなぁなどと思いつつ作業を進めると、やがてそれは、ひそかにユダヤ人を匿っている世帯をあぶりだすために使われる。そのような世帯は登録されている家族の人数に見合わない食料品を買い込んでいることが明白であるためである。

ヘレーネはごく普通の感覚を持ち合わせた人間なので、後からそれを知って心を痛める。さらにナチスに追われるドイツ人脱走兵と恋に落ちてしまっていよいよ抜き差しならない立場に追い込まれる。そして、その場に立たされた者であればそのように動くだろうなと思わせる選択をひとつひとつしていく。

その結果待っているのは、これ以上ないほど悲惨な結末である。ちなみに本作にはもう1人主人公といえる人物がいて、彼は心底胸糞の悪い人間として描かれ、やはり悲惨な結末を迎える。多くの読者となにひとつ変わらない存在であるヘレーネに、物語上の悪役と同じくバッドエンドを迎えさせるところに本作の狙いがあるのだろう。そして、作中の監視社会は現代の技術で実現可能なのだという事実に思い至り、ひやりとする。

 

同じ作者の『グラーグ57』がおもしろかったのを思い出して借りてみた。今作はとにかく設定が魅力的である。

ロンドンに住むダニエルは、しばらく連絡を取っていなかった父親から電話を受ける。母親が精神病を患った挙句、ありえない妄想を抱いて病院から脱走したのだという。両親は仕事をリタイアしてからスウェーデンの田舎の農場を買い取って移住しており、充実した第二の人生をスタートさせたものとばかり思っていたので、ダニエルは困惑する。その直後、今度は母親がダニエルの住居に現れて、父親は嘘をついている、彼は恐ろしい悪事に手を染めており、自分はその証拠をかき集めて逃げてきたのだと主張する。

読者はダニエルの目線で、父親と母親、どちらが真実を語っているのかを探っていくことになる。なにせ『グラーグ57』の作者なのだから、背後で何事かが起こっていないわけがない…国家規模の陰謀があってもおかしくない…と、どちらかというと母親の肩を持ちつつ読み進めた読者は、結末にいささか拍子抜けしたかもしれない(告白すると私は少し拍子抜けした)。しかし読了後、結末に拍子抜けした事実こそがこの種の犯罪被害への無理解そのものではないか、それゆえに被害者はほぼ一生にわたって苦しむことになるのではないかと自戒した。本作のラストで明かされるある出来事は、国家を揺るがす陰謀ではないかもしれないが、紛れもなく深刻な犯罪である。

 

  • エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(東京創元社、2017年)

2人の女性の固い絆を描いたミステリ。読み進めるうちに数段階に分けて意外な展開を見せる作品であるため、ネタバレを回避して紹介するのが難しい。

ともあれ舞台は第2次世界大戦下のイギリス軍である。主人公の1人は地方出身で、幼少期からの機械いじり好きが高じて空軍パイロットになったマディ。もう1人のクイーニーは貴族階級出身でドイツ語が堪能、土壇場での判断力を評価されて特殊作戦執行部員に抜擢される。平時であれば知り合うことなどありえなかったはずの2人だが、同じ空軍基地にいたことがきっかけで出会うなり意気投合する。そしてある日、極秘任務のためにドイツ軍占領下のフランスへ向かうクイーニーをマディが送り届けることになる。ところがその飛行機が墜落して、1人はナチスの捕虜になってしまい…という展開。

後半を読んでから前半を読み直すと胸にくるものがある。作者は小型飛行機の操縦が趣味だそうで、飛行中の描写もいきいきとして魅力的。ちなみに本作はエドガー賞ヤングアダルト小説部門を受賞しているそうだ。一生の友人に出会うかもしれない10代の頃に読むべき1冊であろう。

 

以上、全体的に重たい気持ちになる作品ばかり挙げてしまったが、どれもとてもおもしろかった。2023年も良い本との出会いがありますように。

ポテは本を読まないが、本に顔を擦りつけるのは好き