2020年に読んだ本

今は2021年の5月だけれど、そんなこととは無関係に2020年に読んで面白かった本をリストアップしてみる。以下、読んだ順。

 

  • キャロル・オコンネル『愛おしい骨』(東京創元社、2010年)

内容の割に長尺なので、本がぶ厚いと嬉しくなるタイプの人間におすすめ。推理小説と思って読むといまいちかもしれないが、小さな町の雰囲気があたたかく描かれている。ハッピーエンドなのも嬉しい。

 

DEAの捜査官アート・ケラーは麻薬撲滅のための闘いに身を投じる。やがてメキシコの麻薬カルテルの支配者となる宿敵アダン・バレーラと知り合う。バレーラは言うまでもなく残忍である。しかしケラーの方も結果を得るためなら手段を選ばず突き進む。

犬の力シリーズ3部作はほぼ全ての文章が現在形で書かれているので、感想も現在形で書いてみた。けっこう難しい。ところで今Wikipediaを見ていて、ドン・ウィンズロウが昔読んでいた「探偵ニール・ケアリー シリーズ」の作者だと初めて知った。

 

 めっぽうおもしろい!手に汗握るタイムリープもの。最後のセイディとの再会シーンは涙せずにいられない。

多分初めてのスティーヴン・キングだったのだがすっかりはまってしまい、2020年前半はスティーヴン・キングばかり読んでいた。『IT』とビル・ホッジス3部作もおもしろかった。

 

スターリン死後のソ連で国家保安庁職員として働くレオ・デミドフを主人公に据えたスパイ小説。拷問や暗殺は日常茶飯事、スターリンの死やフルシチョフスターリン批判でレオの立場は二転三転し、果てにはハンガリー動乱にも巻き込まれる。

ハリウッド製作のスパイものであれば、何やかんやありつつも鶴(=CIA長官や大統領)の一声で主人公は危うい立場から抜け出し安全と幸せを保障されるものだが、本作では「鶴」そのものが不安定な立場にあるために一切の安心感がない。「…そうはいっても主人公とその家族は大丈夫でしょ?」などという甘えは許されないのである。それゆえに怖くて、めちゃくちゃおもしろい。

 

警察小説シリーズ第2作(なぜか第2作から読み始めてしまった)。凄惨な描写が本当に凄惨でウッとくる部分も多いが、特にキャラクター描写に魅力がある。2020年後半はカリン・スローターばかり読んでいた。

主人公ウィル・トレントは非常に優秀な捜査官でありながら、複雑な生い立ちゆえにコンプレックスの塊でディスレクシアも抱えている。

ウィルの上司アマンダは女性警察官がほぼ皆無だった時代に市警に入り、州捜査局の副長官にまで上りつめた女傑である。ウィルのことは幼少期から見守ってきた経緯があり強い絆があることは確かだが、期待に背けば平然と危険地帯での任務に送り込むし、ディスレクシアという学習障害を周囲に黙っていることと引換えに無理難題を押し付けてくる。

妻のアンジーは本当に人でなしで、どれほど傷つければウィルが離れていくのか、あるいは離れていかないのか試しているようなところがある。シリーズ読者はアンジーのことを大嫌いか大好きかその両方かだと思うが、アンジーファンならば『償いのリミット』は必読。

この他の女性キャラクターも強烈で、いわゆるステレオタイプな女性というのは1人も出てこない。「母親代わり」とか「悪女」とか単純なイメージでは片づけられない人格がそれぞれに与えられており、一見意外な行動にもそれに至る確たる背景があり、そんなリアルな人間同士のリアルな関係性が描かれている。

 

最初の方に紹介した本は読んだのが1年以上前ということもあり、感想の熱量のアンバランスがすごい。読んだらすぐ感想書かないとだめですね。