常人には理解しがたい愛の交流(ピアノ・レッスン)

ピアノ・レッスンを観た。

前情報をあまり入れず、話すことができない白人女性とマオリ族の青年がピアノを弾くことで心を通わせていく…というような話だと思っていたのだが、とんでもなかった。

 

 ※以下の文章では物語の結末に触れています。

 

19世紀スコットランド。主人公エイダは父親に言われるまま、ニュージーランドに住むイギリス人入植者に嫁ぐことになる。娘(その父親について作中では明確にされていない)と愛用のピアノとともに船に乗り、何とか到着するが、荷物を運ぶ人手が足りずピアノは浜辺に置き去りにされる。

このピアノを自身の小屋に運び入れてしまったのがベインズという50代半ばの白人入植者である。ベインズはピアノを何より大切にしているエイダに、弾きたければ小屋に来るよう強制する。さらにはピアノを弾くエイダの背後に立ってうなじを触る、スカートを捲り上げさせる、急に全裸を見せつけて驚かせるなど、どうしようもないセクハラを繰り返す。

やがてエイダの夫が「ピアノ・レッスン」と称したこの密会を怪しんで(遅い)2人が会うことを禁じ、ピアノはエイダの元へ返却される。ところが!それを知ったエイダは小屋へ走っていきベインズの胸に飛び込むのである。セクハラされてあんなに嫌そうにしていたのにどうして…。

 さらに物語はエキセントリックな展開を見せる。エイダの不倫を知った夫が突然激昂し、斧を手に迫ってくるのだ。エイダは逃げまどい抵抗するが、夫は片手で彼女の腕を押さえつけ、もう片手に握った斧を力任せに振り下ろす。ああ、罰としてピアノが弾けなくなるよう腕を切り落とすのか―と思いきや、切り落とされたのは人差し指1本。超絶技巧である。エイダは目を見開いて座り込むが、興奮状態の人間が急に繊細な斧のコントロールを見せつけてきたら誰でも呆然としてしまうだろう。

その後エイダの眼差しから何かを感じ取った夫は愛し合う2人を許し、2人はエイダの娘を連れてニュージーランドを離れ3人で暮らし始める。

 

エイダの恋の相手となるマオリ族の青年はいつ登場するのかなぁなどと思っている間にベインズが全裸になったりエイダも全裸になったりして、展開についていけなかった。しかし畢竟愛というものは当事者だけが理解できるからこそ特別なのであって、外野が簡単に了解できるものではないのかもしれない。